戦艦「武蔵」の映像に思うこと
戦艦「武蔵」の映像に思うこと
鈴木英輔
戦艦「武蔵」の最後がより鮮明に水深1100メートルの海底から映し出された。
今まで考えられていたよりも衝撃的な姿であった。
実況放送の最後に、プロジェクトの調査スタッフらは船内に集まり、戦死者に黙とうを捧げる、という戦いに参加し、国のために散っていった兵士に対する敬意を忘れなかった。
皮肉なのは、この努力が直接の当事者である日本国政府ではなく、かつての対戦国米国の一市民の手によってなされたことだ。ポール・アレン氏にいかに感謝すべきか言葉を見つけられない。
われわれは、この70年間、あまりにも自国の防衛に馳せ参じていった同胞を無視し、嘲笑し、罵倒し、その戦争が、大東亜戦争がなかったの如く、「太平洋戦争」と戦勝国が創った名称を恥じも外聞も無く使い、その歴史を直接的な当事者としての見地から省みずに、その歴史としての出来事を無意味なもの、恥ずべきものとして削除しようとしてきた。
それこそ歴史のコピペであるという自覚もなしに、日本の侵略を叫ぶ反面、日本軍は他のドイツ、オーストリア・ハンガリー、米国、英国、フランス、ロシア、イタリアという列強諸国と共に義和団の乱の戦闘の事後処理として結ばれた北京議定書に基づいて列強諸国それぞれの軍隊の駐留が認められていたこともスルーしてきた。まして日本が東南アジア諸国に対して悲惨な苦渋と犠牲を負わせたというときにも、かつて日本が結ばされた1853年と1858年の開国にまつわる日米条約に始まる列強との一連の「不平等条約」は1839-42年の英国の清国に対するアヘン戦争の終結と戦後処理のための1842年の南京条約が種本であることもスルーしてきた。まして、他の列強が中国に租借地をどれほど持っていたかもスルーして、その当時の19世紀の東南アジアはどのような状況であったかをも悉くスルーしてきたのだ。
インドネシアはオランダの植民地、現在のバングラデシュ、スリランカ、パキスタンを含むインドは英国の植民地、ベトナム、ラオス、カンボジアを抱えるインドシナはフランスの植民地であり、かつてのビルマ、今のミャンマーは英国の植民地、1898年までフィリピンはスペイン、その後はアメリカの植民地であったこともスルーして来た。さらにフランスやオランダは日本の敗戦後に元の植民地を奪回しようと戦争まで起こしていたこともスルーしてきた。
日本がかつて東南アジア諸国を侵略して蹂躙してきたというならば、100年以上も植民地として地元の住民を搾取してきた列強諸国は何をしてきたと言えばいいのだろうか。歴史のコピペをしていることに慣れているため、肝心な質問を自ら問う能力も喪失したのだ。
そんなことをポール・アレン氏の戦艦「武蔵」に対する真摯な態度と母国のために戦い尊い命を失っていった兵士に対する惻隠の情に感じ入りながら思っている。